無い物ねだり
「ああ、そうだったね」
「そうだったね、だぁ?」
「だから怒るなって!僕は漆原さんの事、そんな風に思っていないから」
「マジで?」
「僕、一度も漆原さんが嫌いだなんて言っていないよ」
「そう、だっけか」
「あの時みんなすごい盛り上がっていたから、同調するような意見を言うと全員『漆原さんは心が冷たくてヒドい女子』を認めたような感じになっていたけど、僕は違うよ。僕は漆原さんをナイスな女子だと思っているよ」
「ナイス?」
「うん。だってさ、新山にあれだけイジめられても、絶対屈しなかったじゃない。それってすごいなーって思うんだ」
「ああ、そうだな」
「それに僕思うんだけど、それだけ漆原さんに思いを寄せているのなら、『愛』か『友情』どっちをとっても、新山の価値は下がらないんじゃないかな。新山は良い奴だし。僕は友達やめないつもりだし」
「進藤…」
「あと、もしこれがきっかけで友情にヒビがはいったとしても、ヘコむ事ないよ。その人とはそれまでの縁だったってことさ」
「そう、かなぁ」
新山は一瞬考えたがすぐニヤリと笑った。心の中で思ってはいたが、怖くてなかなか口にできなかった言葉。それを進藤は言ってくれた。嬉しかった。
(ま、友達が進藤一人になってもいいか。三人分の元気持っている奴だから)
 すると突然、進藤は力一杯新山の肩を叩いた。
「痛っ!何すんだよ!」
「いよっ、青春!くぅー、俺もしたーい!」
進藤はしばらくの間、ゲラゲラと笑っていた。それを見ていた新山も嬉しくなりゲラゲラと笑い出した。笑っていたら、だんだん心が軽くなってきた。
 どんな困難も、乗り越えられそうな気がした。
(あとで、漆原のお見舞いに行ってくるかな)
こっそり、心の中で思いもした。



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