無い物ねだり
「良い子ね、彼。今時の子ってみんなスレているのかと思っていたけど、新山君みたいに思いやりのある謙虚な子もいるのね」
「謙虚なんかじゃない!」
私は吐き捨てるように言った。心がズキズキ痛むのとケガをしたショックで、あたらずにいられなかった。
「ずいぶん査定が厳しいのね。謝っているんだもの、許してあげたら」
母の新山を思いやる言葉を聞いたら、さらにイラッとした。私は今日の一件の腹いせに彼にイジめられている事を全部ブチまけ、父さんと母さんに反撃してもらおうかと思った。
(でも、ここまで運ぶよう救急車を手配してくれたのは新山君だしな…)
彼がしてくれた事や先ほどあやまってくれた事を思うと、そこまでムゲに扱ってはいけない気がした。
「色々あるの」
思わず言葉を濁した。
「涼みたいにロクに笑わない子って、どんなに良い人でも異性にウケが悪いわよね。でも新山君はキチンと対応してくれた。もしかしたら、涼の本質を見抜いているのかもしれないわね」
「彼に限って見抜けるワケがない。新山君の目は、すごい節穴だもの」
「一度噴火した火山は、なかなか収まらないわねぇ」
母は大きくため息をついた。
 すると誰かが『失礼します』と言い、カーテンをめくって入ってきた。監督の恩田先生だった。父と母は『いつもお世話になっています』と言って頭を下げた。私はいっきに緊張し、体を硬直させ頭を下げた。彼女が『アナタを試合に出しません』と、最悪のセリフを言うような気がして。
 恩田先生は、赤いTシャツに黒いジャージのズボンをはいていた。格好からして、どうやら部活から直行して来たらしい。
「気が付いたようね、良かったわ。ケガの具合はどう?」
ドキッとした。いきなり一番の心配事に触れられ、恐怖に顔さえ上げられない。問題を起こした事を問いただされるかもしれないと思えば、呼吸する事さえ苦しかった。
「手当してくれたお医者さんから色々話しを聞きました」



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