無い物ねだり
母はスリッパをベッドの下から引っ張り出すと、履きやすい場所にそろえて置いてくれた。父は私の腰を抱きかかえ、支えてくれた。しかしスリッパを履くと、二人の申し出を断るため頭を左右に振った。
「いい。一人で行ける」
「でも、足首痛いだろ?」
「大丈夫。トイレくらい、一人で行けるよ」
「…わかった。何かあったら、すぐに戻ってくるか、看護士さんを呼ぶんだよ」
「うん」
私の強い口調に父はため息混じりで答えた。しゅんとした表情に少し心が痛んだ。
だが、これ以上心配をかけたくないからと心を鬼にした。自分一人でできるだけガンバルつもりだった。
カーテンをめくって出ると、多くの看護士さんや半袖の白い制服を来たお医者さんが、足早に向かいのカーテンをめくって入って行くのが見えた。十分前に来た患者の処置をするためだろう。みんな忙しそうだった。すると、隣にあるベッドを囲むカーテンをめくって一人の看護士が出てきた。三十代くらいの、はつらつとした感じの女性だ。その看護士は私に気づくと、『どうかしたの?』と声をかけてきた。私は聞こえるギリギリの小さな声でしゃべりだした。
「あの…私を治療してくれた先生は、どこにいるんですか?」
「医局にいると思うけど。あっ!でも、昨日の夜忙しくてほとんど寝ていないって言っていたから、仮眠室で休んでいるかもしれない」
「そうですか…じゃあ、先生に聞きたいことがあるんですけど、今はダメですね」
「そうねぇ。先生寝ているかもしれないし…私、様子を見てきましょうか?」
看護士は私の足をチラリと見た。
「その足じゃ、アチコチ出歩けないでしょ」
「いえ、歩くのはぜんぜん平気なんです!だから、先生に会えるところまで行って自分で話したいんです」
しかし看護士は疑り深いまなざしで私の足と顔を見た。
「…あなた、とても顔色が悪いわよ。ケガした足、すごく痛むんじゃない?」
「いい。一人で行ける」
「でも、足首痛いだろ?」
「大丈夫。トイレくらい、一人で行けるよ」
「…わかった。何かあったら、すぐに戻ってくるか、看護士さんを呼ぶんだよ」
「うん」
私の強い口調に父はため息混じりで答えた。しゅんとした表情に少し心が痛んだ。
だが、これ以上心配をかけたくないからと心を鬼にした。自分一人でできるだけガンバルつもりだった。
カーテンをめくって出ると、多くの看護士さんや半袖の白い制服を来たお医者さんが、足早に向かいのカーテンをめくって入って行くのが見えた。十分前に来た患者の処置をするためだろう。みんな忙しそうだった。すると、隣にあるベッドを囲むカーテンをめくって一人の看護士が出てきた。三十代くらいの、はつらつとした感じの女性だ。その看護士は私に気づくと、『どうかしたの?』と声をかけてきた。私は聞こえるギリギリの小さな声でしゃべりだした。
「あの…私を治療してくれた先生は、どこにいるんですか?」
「医局にいると思うけど。あっ!でも、昨日の夜忙しくてほとんど寝ていないって言っていたから、仮眠室で休んでいるかもしれない」
「そうですか…じゃあ、先生に聞きたいことがあるんですけど、今はダメですね」
「そうねぇ。先生寝ているかもしれないし…私、様子を見てきましょうか?」
看護士は私の足をチラリと見た。
「その足じゃ、アチコチ出歩けないでしょ」
「いえ、歩くのはぜんぜん平気なんです!だから、先生に会えるところまで行って自分で話したいんです」
しかし看護士は疑り深いまなざしで私の足と顔を見た。
「…あなた、とても顔色が悪いわよ。ケガした足、すごく痛むんじゃない?」