無い物ねだり
「そ、そんなことないです!少し痛いだけです!」
ドキドキしながら言った。実際足はずーっとズキズキ痛んでいるから。
「でも、この部屋にいるって事は、外来へ行くのが間に合わなくて救急車で運ばれて来たんでしょ?重傷じゃない」
「・・・!」
「やせ我慢すると、後で後悔するわよ。今は私に素直に頼って。悪いようにはしないから」
「でも…」
「わかった!じゃあ、もし先生が起きていたら、近くの空いている部屋まで来てもらうよう頼んであげるから、そこで直接話すってのはどう?それなら誰にも知られないし、あなたの言葉で伝えることができるでしょ」
「ああ、なるほど」
「それでいいかしら?」
「はい、お願いします」
私は深々と頭を下げた。一筋の光が見えたようで、とても嬉しかった。
「じゃ、今から行ってくるわね。それまでベッドへ戻って体を休めていて」
看護士はくるりと背を向け、立ち去ろうとした。しかし私はハッとして彼女の手をつかみ引き留めた。
「待って下さい!」
それほど大きな声を出したつもりはなかったが、考えていたより大きかったようで、室内が一瞬シーンとなった。母もカーテンを少し開けて顔を出し、驚いた様子で私を見た。
「あら、まだいたの?やっぱり足が痛くて歩くのが辛いんでしょ?だからお母さんが一緒に行くっていったのに」
母は看護士のお姉さんに向かって『すいません』と言いつつ私の方へやって来た。私は『しまった!』と思い、冷や汗を流しながらチラリと看護士を見た。看護士は私が焦っている事に気づいたらしく、右目で軽くウインクした。
「お母様ですか?」
「はい、そうです。娘がご迷惑をかけたようで、すいません」
「いいえ。私は先生からお嬢さんに話したいことがるからと、お嬢さんの様子を見てくるよう頼まれてたんです。ですから、ご安心下さい」




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