無い物ねだり
「…はい」
「オッケー。じゃ、授業始めるわよ!あっ!十分も経っちゃった。急いで実験の準備して。チャッチャやるわよ!」
恩田先生は白衣の裾をヒラリとひるがえして教壇の前へ行くと、テキパキと用具の準備を指示しだした。根に持っている気配はない。
(大人だ)
根に持っている私や新山は、とても子供に思えた。
(よーし、昼休みに決着着けてやる。そしてサッパリするぞ!)
新山の横顔をチラリと盗み見し、固く誓った。
 しかし私達の戦いは長期戦になりそうだった。昼休みさんざん話し合い、やり合ったが、結局決着がつかなかったのだ。恩田先生がいつものように新山へ『漆原は女子バスケット部の大事なプレーヤーだから、お手柔らかに』と言っても効果無し。『俺は悪くない。コイツが悪いんだ』と罪をなすりつけるばかりだった。
 私は、言葉に出来ない悲しみと傷つけられた怒りを新たにしただけだった。

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