無い物ねだり
 自室のベッドの上に座りみんなを出迎えると、全員包帯でグルグル巻きにされた私の右足首を見て、一様に顔を硬直させた。
「涼ちゃん、足、大丈夫?」
「うん、たいしたこと無いよ。いろいろ迷惑かけてゴメンね」
「漆原、明日は試合に出られそうなの?」
「うん。一試合一ピリオドだけだけど、出られるよ」
とたん、村井は眉間にシワを寄せた。
「一ピリオドだけ?本当に足は問題ないの?」
「問題ないよ。実はフル出場できるんだけど、お医者さんが『大事を取って、一ピリオドだけにしなさい』って言ったんだ。だから十分くらい、ぜんぜん平気!」
「本当に?無理していない?」
「もちろん!」
私は元気に言った。足首がズキッとして、ちょっと顔をしかめそうになった。
(危ない危ない!)
「そう、よかったわ。明日はいよいよT代付属と戦える。一緒に今までがんばってきたんだもの、少しでいいから一緒に戦いたいわ」
「まかせて!」
「恩田先生には私から頼んでおくわ」
「うん、お願い」
皆は二十分ほどでお見舞いを終えると帰って行った。明日のために体を早く休めるのだろう。
 風亜は何か言いたそうだったが、『少し眠いから』とウソをついて無理矢理帰した。
 部員が帰ると、入れ替わりですぐ母がやって来た。
「問題ないだなんて。そんなこと言ったらダメじゃない」
「盗み聞きしていたの。やめてよ、もう!」
「ごめんなさいね。でも、また無理なことを言いそうで心配だったの」
「私がどれだけ練習したと思っているの。全部水の泡になるくらいなら、無理だってするよ」
「でも試合に出たら、みんな涼の事当てにするわよ。なのに、いざ試合に出て倒れたりしたら、かえって迷惑じゃない」
「約束通り十分しかでないわよ。それならいいでしょ」
「ずいぶんガンバルわねぇ」


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