無い物ねだり
思わず勢いでベッドから降りた。とたん、激痛が足と背中で爆発した。
「いったぁー!」
湿布を貼りベッドの上に座り安静にしていたおかげで大分痛みは和らいだが、動けばやっぱりズキズキと痛んだ。
(大丈夫、大丈夫。ちょっとの辛抱だから)
それに耐えながら少しずつ前へ進む。しかし動けば動いた分だけズキズキと痛みが襲ってくる。だんだん不安になってきた。
(一歩を踏み出すのがこんなに大変だとは思わなかった。明日、大丈夫かなぁ)
たかだか数メートルの距離がとても遠く感じる。明日の試合の事を考えると、十分間とはいえ、激しい動きに耐えられるかすごく心配になった。
 どうにか机に辿り着くと、荒い呼吸を整えようと深呼吸した。額や脇の下、背中には大量の汗が噴き出している。今の私には大仕事だ。
 おまけに今度は緊張で心臓がバクバクと早い鼓動を繰り返す。机の中から連絡網のコピーを取り出しリュックの中から携帯電話を取り出せば、さらに緊張感は高まった。連絡網の中から『新山一成』の名前を見つければ携帯電話を持つ手がブルブルと震えた。
(ガンバ、ガンバ!)
震える手で二つ折りになっている携帯電話を聞くと、何度も何度も確認しながら番号を押した。『ツッ、ツッ、ツッ』と三回音がした後『トゥルル、トゥルル』と呼び出し音が聞こえれば、緊張は最高潮に達した。
 とたん、新山の『何のようだ』と言う声と、いぶかしげな顔が浮かんだ。
 それは幻覚なのに、思わず通話を切ってしまった。
(や、やっぱり無理!)
机に手をつき、がっくりとうなだれた。緊張に耐えられなかった。
 今まで異性に『声が聞きたい』なんて理由で電話をかけた事はない。衝動的とはいえ、大胆な行動に顔から火がでそうになった。
 すると突然、着信メロディーが鳴り響き、携帯電話の液晶画面が明るく光った。
(もしかして新山君?)
慌てて液晶画面を見れば、風亜からだった。ちょっとガッカリした。
「も、もしもし?」
『涼ちゃん、体の調子はどう?』
「うん、だいぶいいよ」




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