無い物ねだり
第二章
 同じ週の金曜日。いつも通り授業を終えホームルームと掃除をすませると、足早に体育館へ向かった。
 レギュラーメンバーにはなっているが、油断はできない。メンバーは皆、チャンスがあればレギュラーになりたいと思い、必死に練習している。その気迫が伝わってくるだけに、のうのうと練習してはいられなかった。
(一年生が準備を終えたら、すぐ練習しよう。うまくいけば部活が始まるまで十分はある。シュート練習ならけっこう出来るはず!)
自然と気合いが入り、右手の拳をギュッと握った。今はやればやっただけ上達しているのがわかる。だから練習するのが楽しくてしょうがなかった。
 体育館へ向かって小走りで歩いていると、サッカー部の二年生が走って追い越していった。玄関に着けば外靴に履き替え、ガヤガヤとにぎやかに会話を交わしながら外へ出て行った。何でもOBが練習を見に来るらしい。
(今年卒業した先輩か。キャラの濃い人が多かったもんね。そりゃ会いたくもなるか)
自分のミニバスケット時代を思い起こし考える。先輩達にはずいぶんしごかれたが、何かと面倒も見てもらった。中には恋愛相談に乗ってもらった部員もいて、失恋した報告をしたら一緒に泣いてくれた。
 日を重ねるごと絆は深まり、一緒にバスケットをするのが楽しくてしょうがなかった。試合で勝てば嬉しくて、負ければ悔しさを分かち合った。だから、卒業する時は寂しくて泣いた。みんな号泣した。できるならもう一度先輩達とバスケットをしたかった。
(今、この部に同じミニバスチーム出身の人はいない。みんな違う部へ転向したか高校生になってしまった。でも、街で会えばちゃんと挨拶して、たまにバスケットの話しもする。ただ会えるだけで嬉しい)
玄関の前で立ち止まり考えていたら、なんだか幸せな気持ちになった。
 しかし新山が現れたとたん、厳しい現実へ引き戻された。
 新山は私をチラリとニラむと、外靴に履き替え外へ出て行った。部活をしに行くに違いない。私はせっかく良い気分に浸っていたのに、台無しにされガッカリした。同時に、去っていく彼の後ろ姿を実ながら、幾度と無く思い返した『あのシーン』を再び思い返した。

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