無い物ねだり
「大事な用事?具合悪くて部活休むんじゃねぇの?」
「そうだ」
「めっずらしー。サッカー激ラブで昼休みまでプレーしているお前が、部活サボってプライベートを選ぶなんて。どうしたんだよ」
「サッカーより、大事な物ができたんだ」
「あ!片平さんだろ。そうだろ?」
「漆原事件の後、ちゃんと仲直りしたんだろ?」
「なるほどねー。あんなにかわいい彼女ができたら、部活なんてやってらんねぇよな。できるだけ時間を作って一緒にいたいよな」
「そうだそうだ!」
「それで今日は片平さんの発表会かなんか見に行くのか?」
大橋や田口は自分の事のように目をキラキラさせて聞いてきた。かなり片平の事を気に入っているらしい。
 しかし新山は頭を左右に振って否定した。その場にいた全員『まぁた』と冷やかした。
 どうやら彼らは事件の真相を知らないらしい。それは事件が起こった時にいた進藤や風亜が誰にも何も言わなかった証で、新山は彼らの人間性のすばらしさを知り嬉しくなった。戦う勇気も沸いてきた。
(みんな、俺が片平さんとただの同級生になった事を知らないんだ。…ちょうどいい。すべてブチまけて、新しい一歩を踏み出してやる!弱虫な自分とはおさらばだ!)
新山は一度大きく深呼吸すると、キリリとした視線で大橋達を見すえた。すると、茶化していた彼らも、ようやくマジメな顔になった。
「おい、どうしたんだよ新山。今日のお前変だぜ」
「本当。マジ、別人みてぇ」
「…そう、俺は今日から別人になるんだ」
「はあ?朝から変なモンでも食ったか?」
「ここ最近、暑いからなぁ。飲んだ牛乳とか腐っていたんじゃねぇ?」
「それ、マジでシャレになんねえって。今ごろ腹を下してトイレから出られねぇよ!」
田口はゲラゲラ笑いながら言った。しかし新山は笑わない。いつもなら一緒に爆笑しているが、今日はしない。ニヤリとも笑わない。さすがに大橋達も不安になった。
「なあ、新山。マジでどうしたんだよ」
「ハッキリ言う。片平とは、付き合ってない」





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