無い物ねだり
「…は?」
「今まで付き合ったフリをしていただけなんだ」
「それどういう意味?ワケわかんねぇ」
「片平とは一秒も付き合っていない。恋人になる事を前提として、友達づきあいしていただけなんだ」
「ええっ!」
「俺には好きな人がいる。片平じゃない」
「マジで?」
大橋も田口も含め、そこにいた全員、大きく口を開けたまま硬直した。
「ありえねぇ…あんな、アイドル並にすごい美少女を好きにならないなんて。絶対、ありえねぇ…」
「つーか、片平奈々より美少女が知り合いにいるって事じゃねえ?新山って、すっげー人脈持ってんな」
「それより、片平の良さを見抜けない新山の目は節穴だろ」
「そうだな。それはありえる」
「おい、新山。お前片平と付き合わなかった事、絶対後悔するぜ。フッてまだ間がないんだ。考え直してみろ」
大橋は言った。その場にいた全員、ウンウンと大きく頷いた。しかし新山は再び頭を左右に振った。
「俺は後悔していない。俺は自分の好きになった女が片平よりずっと良いと思っている。最高だと思っている」
「へぇー、大した自信だね。で、誰なんだよその女」
「それは…」
「場合によっちゃ、お前をゆるさねえ。ムカつくからな」
「いいさ、ムカついても。いっそ腹ン中に貯まったドス黒いモン、全部ブチまけようぜ。そして…」
新山は持っていた紙袋を足元に置くと、胸の前で開いた右手と拳を作った左手を力強く打ち合わせた。
「俺達、これからも一緒につるんで行くかどうか、考えようぜ」
この後、嵐のような一騒動が勃発したのは言うまでもない。
 しかし新山の顔は輝いていた。明るい未来を予感しているかのように。







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