無い物ねだり
「さて、そろそろ試合が始まるわ。まずは準決勝の相手を倒しに行きましょう」
「は、はいっ!」
恩田先生はそれだけ言うと、さっそうと控え室を出て行った。いつも通り、アダルトでカッコイイ彼女だった。変わったところは少しもない。
(やっぱり先生にはかなわないなぁ。ま、でも、無事出してもらえそうだから良かった!)
廊下に出ると、他の学校も続々と出てきていて、見知った顔を何人か見つけた。すると懐かしくて、嬉しくてワクワクした。
(昨年、全中で戦ったあの子だ。今年も戦えるなんて幸せ。開会式の時、人がたくさんいて気づかなかったけど、いたんだ。今回も良い試合しようね)
私はそう思いながら手を振った。相手も私に気づくと、ニッコリ笑って手を振り替えしてくれた。同じ気持ちなのだろう。
 メインアリーナに入ると、中はすでに熱気に包まれていた。ギャラリー席には、満タンで観客が入っており、試合が始まるのを今か今かと待っていた。
 一試合目に試合があるわがチームは、ベンチの真上あたりにベンチ入りできなかったチームのメンバーと親達が陣取り、大段幕を広げ、手に色とりどりのメガホンを持っていた。中には制服を着た一般の生徒もいて、明らかに学校をサボって応援に来てくれたのがわかった。
(北海道はもう夏休みが終わっているもんね。わざわざ授業をサボってまで応援に来てくれてありがとう!)
ベンチに着いた私は、心の中で言った。名前を知らないから、大声で叫ぶのがはずかしかったから。
第二試合目、準決勝は、九州ブロック代表のK中学と戦った。準決勝ともなると相手チームのレベルも格段に上がった。選手は全体的に小柄だが、パスワーク、ドリブル、シュート、どれをとっても上手い。少しの油断で、どんどん点を取られてしまう。
 私は早川先生と約束した通り、第四クオーターから出場した。ケガをした右足首の痛みは全く無く、おかげで何本もスリーポイントシュートを決める事ができた。チームも無事、決勝へ駒を進める事ができた。







< 149 / 214 >

この作品をシェア

pagetop