無い物ねだり
 そしてこの考えが正しい事は、試合が始まるとすぐわかった。
 第二試合で戦った二チームがアリーナの中から出てくると、私達は入れ替わり入った。コートの周りを回ってベンチ入りすると、おもむろにコートを見た。コートは、ボランティアでお手伝いしてくれている学校の生徒がモップ掛けしてくれていた。選手達の落ちた汗をキレイに拭いてくれているのだ。そのままにしておくと滑り、ケガにつながるからだ。
 そんなコートは妙に広く感じた。縦に二往復したら、ヘトヘトになりそうな気さえした。
「そろそろウォーミングアップするよ!」
キャプテンの村井が時を見計らってみんなに声をかけた。
(弱気になっちゃいけない。よし、がんばるぞ!)
私を含めた出場メンバー十人はうなずくと、彼女の指示の元ベンチの前に陣取り、メニューを順調にこなした。
「あっ、あそこ見て!」
とたん、側にいた戸塚がウォーミングアップもそこそこに、応援団から離れた場所を指さして叫んだ。
「どうした…えっ!」
私は戸塚が指さした方を見たとたん、驚きのあまり釘付けになった。そこには見知った顔がいたのだが、信じられない人が座っていた。
「新山君!」
私の心を揺さぶる人、新山一成と、その友達の進藤がいた。それも『ファイト!クールな三点シューター、漆原 涼』と書かれた横長の紙を持って。
 おまけに、新山の顔は左目の横や口の端が赤黒く腫れ、口の端には絆創膏が貼られていた。
(な、何があったんだろう…)
動揺で、胸がドキドキした。今すぐ理由を聞きたかった。
黙っていると、戸塚が私の肩をつんつんとつっついた。
「あの二人のどっちか、もしかして漆原の彼氏?」
「ち、違う。違うよ!」
「反対するところが、あっやしーなぁー」
「本当に違うの!」
 








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