無い物ねだり
新山の楽しげな様子が私を勇気ずけてくれる。試合でも大きな活力になりそうだった。
 ほどなくして、ベンチの周りが慌ただしくなった。あと少しで試合が始まるのだ。私はこれからコートの中へ入るため戦闘意欲を高めている戸塚の側へ行くと、右手を差し出した。戸塚はいぶかしげに眉をひそめると、『腑に落ちない』と言う顔をした。
「そんな、おっかない顔をしないでよ」
「何の用よ」
「…試合、がんばって」
「言われなくても、そのつもりよ」
戸塚は無愛想なまま差し出した手を握った。
「漆原の代わりで出るなんて思っていない。私は実力があるから、最初から試合に出るの」
「わかってる」
「私は勝つわ、漆原無しでも。でも声援がないと寂しいから、ちゃんと応援してよね」
「了解。力一杯応援する」
「じゃ、試合始まるみたいだから行くわ」
「うん」
戸塚は私の手を一度ギュッと握ると、試合に出るメンバーと供に円陣を組んだ。『緑成館、ファイ、オーッ!』と気合いを入れれば、ハイタッチをしてさらにヤル気を高めた。彼女の背中はとても凛々しく頼もしかった。
(任せたよ、戸塚)
私は今一度、彼女にエールを送った。
 試合開始時刻一分前になると、先発メンバーの五人はラインの前に立ち、オフィシャルの人に番号のチェックをしてもらった。終わり次第一礼すると、キャプテンを先頭にコートの中へ入った。何だかとてもドキドキした。
 メンバー構成は、センターでキャプテンの村井、ガードで二年生の三好、同じくガードで三年生の井川、唯一の二年生でフォワードの山之内に、私の代わりで入った三年生でフォワードの戸塚。早い攻めと、インサイド(ゴールの下の、白線に囲まれた中)のジャンプショットを得意とするチームだ。
 対し相手チームは、全体的に身長が高く、インサイドのディフェンス(守り)を得意とする。ゴールのリングに弾かれたショット、『リバウンド』を取る能力に優れた選手が多く、小柄な選手が多い我がチームにとって一番苦手な部類だった。
(私が出られれば、大分違うんだろうな…)







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