無い物ねだり
またもギャラリー席は盛り上がった。いや、ベンチも盛り上がった。打倒T大附属へ向けて、大きな一歩を踏み出した。
しかし、そこから点を取るのは難しくなった。ただでさえ相手チームは背が高いので、一生懸命シュートを撃ってもたたき落とされてしまう。得点率の高い村井には、ボールを持ったとたん、これ以上シュートを撃たせまいとマークが二人着き振り切るだけで大変だ。ならばと、他の選手がカバーするよう早いパス回しであちこち攻め入りシュートを撃つが、四回に一回しか決まらない。予想通り苦しい展開になった。
 救いなのは、相手チームのパスを何本もカット出来たこと。おかげで、相手チームはさほど得点できていない。
 一ピリオド終了時、我がチームはギリギリで勝っていた。
 しかしベンチに戻ってきた先発メンバーは、一様に厳しい表情をしていた。私の代わりに入った戸塚も、せっかくの先発入りを嬉しく思う余裕はなく、全く浮ついた表情を見せない。プレッシャーに押しつぶされまいと、必死に戦っているようだった。
 第二ピリオドが始まる前、再び円陣を組んで作戦を練った。
「読んでいた通り、T大附属の高さに阻まれ、ゾーンでのショットが非常に決めづらくなっているわ。このままでは、いずれ押されて負けに転じるでしょう」
みんな、恩田先生の話を真剣に聞いている。笑顔はチラリとも見えない。
「そこでこれからは、スリーポイントシュートを決める自信が少しでもある人は、積極的に撃っていくように。また、スリーポイントシュートに自信のない人は、選手をどんどん入れ替えていくので、体力が尽きることを心配せず果敢にゾーン内でショットを撃ちましょう。さあ、高い壁に負けたりしないで、強気で攻めるのよ!」
「はい!」
ベンチいりしているベンバー全員が強くうなずいた。みんなの目には、勝利への強い意志が宿っている。監督の一言で、不安が払拭されたようだ。
(そうだ、試合はまだ始まったばかり。ここで『負ける』と決めるのはまだ早い。最後の一分までがんばらなきゃ!)
私はまだ出られないが、同じチームのメンバーとして弱気を捨てようと決めた。





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