無い物ねだり
 第二ピリオドから早速作戦通り、井川と山之内が抜け、替わりに三年の田中と二年の佐々木が入った。コートにいる五人の背中は、ピンと伸びていて格好良い。みんな、果敢に敵へ立ち向かおうとしていた。
(がんばって!)
選手が各ポジションに着くと、第二ピリオド開始を知らせるブザーが『ブーッ』鳴った。とたん、コートにいる選手全員がボールを追って動き出した。
 よく見れば、T大附属も選手を一人入れ替えていた。どんどん点を取ろうと、元気な選手を入れたのかもしれない。
 我が校のメンバーは恩田先生の指示通り、力の限りコートを駆け抜けた。そして、食らいつくように相手チームからボールを奪い、いつも以上に、バンバンシュートを撃った。パワフルな動きに、ギャラリーから『すごーい!』と簡単の声が上がった。
 しかし私は『力一杯動いて大丈夫?』とちょっと心配になった。見た目よりハードなスポーツだから、『疲れたら選手を交代させる』といえど、あまりにも早くバテてしまうのではないかと思ったのだ。
 そんな彼女達を突き動かしているのは、勝利への飽くなき執念だろう。
(やだもう、私ったら!弱気にならないって誓ったのに!)
「リバーンド!」
戦っているみんなの思いが痛いほどわかるから、後ろ向きな考えを押し込め力一杯叫んだ。また、ゴール下のゾーンで背の高い選手にシュートを阻まれても、スリーポイントラインからシュートを撃とうとして阻まれても、ボールを取り返し再び撃とうとする姿を見れば、握りしめた拳に力が入った。
 ただ、やはりシュートは決まりづらい。背の高い選手にバンバン阻止されるのだ。
「あーっ!また止められた!ササ(佐々木)と戸塚、ガンバッてんだけどなぁー。T大附属、壁が厚すぎる!」
交代でベンチ入りした井川が、ため息混じりに叫んだ。目の前ではチームメイトが、アゴからしたたり落ちるほど汗をかき、肩を上下させ荒い呼吸を繰り返しながら戦っている。努力が実らない仲間を見ていると、切なくなったのだろう。




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