無い物ねだり
 恩田先生は状況に素早く対応すべく、さらに選手を交代させた。ガードの井川とフォワードの山之内をコートへ戻し、田中と佐々木が帰ってきた。
「井川、山之内、ガンバ!」
「任せておいて!十分休んで体力が回復したから、シビれるショットをお見舞いしてやるわ!」
井川は左目でウィンクしながら言った。反対に、返ってきた田中と佐々木はグッタリしてベンチに腰を下ろした。恩田先生の指示通り、全力で戦ったのだろう。
「お疲れ様」
「うん、ありがとう」
スポーツドリンクの入った水筒を渡しながら言うと、田中と佐々木はかすかに笑った。彼女達の笑顔を見て私はホッとした。
 第二ピリオドは、終盤へさしかかろうとしていた。点差は僅差ながらも我がチームが勝っていた。ここで粘るためには、疲労度の少ない選手達にガンバってもらうしかない。
 コートへ戻った井川は宣言通り、気合いの入った動きを見せてくれた。三好、村井と渡ってきたパスをゴール前で受け取れば、ガンガン押してくる相手チームのディフェンスを一息でくぐり抜け、ボールを軽く持ち上げるようゴールへ放ちシュートを決めた。レイアップシュートだ。
「よしっ!」
井川は嬉しさを現すよう、満面の笑顔で左手の親指を立てた。見ている私達まで元気になった。
 第二ピリオド、残り二分。波に乗るよう、山之内がジャンプショットを決めた。チームの空気は一気に盛り上がり、パスワークや選手の動きは確実に良くなった。おかげで少し点差を開くことが出来た。このまま勝ち逃げ出来そうな気さえした。証拠に、T大附属の選手は皆、とても疲れた顔をしていたのだ。
 かくして、第二ピリオドは、勝利で幕を閉じた。戻ってきたチームメイトは、全員笑顔だった。努力が実り嬉しいのだろう。
「このまま次も行こう。そして必ず一勝を手にしよう!」
「オッケー!」
村井が言うと、全員笑顔でハイタッチした。私は自分が出場できないのは寂しかったが、みんなが笑顔になれたのはとても嬉しかった。ずっとうまくいって欲しいと思った。








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