無い物ねだり
 だが思いとは裏腹に、胸の中には嫌な予感が渦巻きだしていた。いくら消そうとしても消えない。何か良からぬ事が起こりそうな気がした。
 ふと、相手チームのベンチを見た。左隣にいる十一名の選手達と監督。さきほど出場していた選手のうち四名がベンチに座り、首にかけたタオルで汗を拭いている。監督の周りにいるのは、キャプテンでセンターの堂島と、さっきまでベンチに座っていた四人。首にタオルもかけず立って監督と話している様子からして、次のピリオドに出るに違いない。
 ふいに、昨日見たT大附属の試合が頭の中に浮かんだ。不安で胸がドキドキする。
(昨日も第三ピリオドでメンバーを替えて大量得点を奪い、勝ったんだ。)
よく見れば、スリーポイントシュートをバンバン決めた青山もいる。
(点差はあまりないけど、T大附属は私達に負けている。試合も折り返し地点。できることなら、勝ち越し点を入れたいだろう。…また青山で攻めるつもりなのかな?)
点差がさほど開いていない今、その可能性は十二分にある。そろそろ勝ち越し点を入れ点差を作らねば、優勝の可能性は下がってくるからだ。
(強豪として名をはせ、十度も全国覇者の栄冠を手にしているだけに、準優勝になることはさぞや屈辱だろうね。…でも今年は屈辱を必ず味合わせてみせる。帰国子女なんか屁じゃないわ!)
色々考えているうち闘志がわき起こり、不安を吹き飛ばした。二年分の雪辱を改めて晴らしたいと思った。
 すると、誰かが目の前に立った。見上げると、恩田先生だった。私は慌てて立ち上がり一礼した。
 とたん、彼女は私の不安を打ち消すよう、左肩をポンと叩いた。
「アップしといて」
それだけ言い残せば、出場メンバーの元へ戻っていった。
 私はドキッ!とした。全身の血が感動でザワめいた。待ち望んだT大附属との一戦。昨日の騒動で水の泡になると思った分、やって来た出場のチャンスは、天にも上るほど嬉しかった。







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