無い物ねだり
一年生の頃からバスケット中心に生きてきた私は、授業中寝ている事が多く、いつも全教科赤点ギリギリでクリアーしていた。しかし先生達は私のバスケットの才能を認めてくれ、いつも暖かい目で見守ってくれた。 
 しかし三年生ともなれば話は別らしく、入学式の日、『今年もいっぱい新入生が入部してくれたらいいなー』と浮かれたまま職員室へ行くと、担任の教師からいきなりボディーブローをくらった。
『おまえ、卒業する気あるのか?』と。
開口一番の言葉としてはあまりにもヘビーだったため、我が耳を疑った。何も言えなかった。シャレかとさえ思った。しかし担任は至ってマジメな顔をしていて、とてもシャレとは思えなかった。
 だめ押しのように担任は言った。
『このままだと、本当に卒業できない。成績がひどすぎる。内申点も良くない。したがって…第一希望のY高校へも行けない』
この時初めて私は、自分の立場が危うい事に気づいた。崖っぷちだ。おそらく足場の残りはあと一ミリくらい。少しでも気を緩めれば、奈落の底へ真っ逆さまだ。
(今まで先生達に甘えていたツケがこんなところでやって来るなんて…入学して三年目の春にきづくなんて…もう少し早く気づけばよかった)
私は呆然と宙を見つめた。
 職員室の外からは、楽しげな声が聞こえてくる。どの声も未来への希望に溢れ、前途有望な気がした。
 いくら身から出たサビとはいえ、私は切なくなった。久々に本気でヘコんだ。
(でも、ここで負けたら終わりだ。高校へ行ってバスケがしたいのに、その道が断たれてしまう。そんなのイヤ。絶対イヤ!)
気持ちは即決まった。私は担任の顔をまっすぐ見ると、力強く言った。
『ええ、卒業します。そのために必ず成績を上げます。授業だって、寝ないでちゃんと聞きます。そして第一希望であるY高校へ行きます!』
あの時の私は、我ながら格好良かった。ホレボレした。
(なのに、もう挫折しそうだよ。睡魔に負けそうだよ…)
宣言から二週間目で心は折れかかっていた。決して難しい事じゃないのに出来ない。私は生活習慣を変えることの難しさを痛切に感じていた。




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