無い物ねだり
 コートへ戻っていく出場メンバーの後ろ姿を見て、血がたぎるのを感じた。
(みんなと戦える、みんなと戦える…大好きなバスケットができる!)
ベンチの脇に立ちアップを続けながらも、顔がニヤけた。『変な人』と思われやしないか心配になったが、嬉しさがそれを上回り止められなかった。ただ、それはみんなからすると大した事がなかったようで、誰も『どうしたの?』と尋ねてこなかった。
 私達のチームは、第二ピリオド終了時のままのメンバーで第三ピリオドに挑んだ。気になったのは戸塚。戸塚は少し疲れが見え始めていた。試合開始からまだ二十分しか経っていなかったが、積極的に攻撃しT大附属から激しい攻めを受け体力を激しく消耗していた。
(ガンバレ、戸塚。もう少しで私と替わるから!)
「戸塚、ファイッ、オーッ!」
私もベンチにいるメンバーも、ギャラリーにいる応援団も、彼女に声援を送った。新山達も一生懸命応援してくれている。すると声援に応えるよう、戸塚も動いた。まるでエネルギーを吸収したかのように。
 T大附属の入れ替わった四人は最初、特に変わった様子は見せなかった。これまでの選手同様、強い圧力を感じさせる守りとゾーン内でのシュートを撃つだけだった。
「ねえ、遠藤彩花と大島有実、まだ攻めてこないね」
ふいに田中先輩が言った。
「そうだね。こうやってコートに出てきたって事は、早めに点を取り返すつもりなんだろうに。ヤな感じぃー」
佐々木先輩が不満そうに言った。
「昨年や一昨年の事を考えると、明らかに動きが違うもんね。絶対何かたくらんでいるよ」
「私もそうだと思う。やっぱりアレかな。帰国子女二人の才能を活かすために、最高のチャンスが来るのを待っているのかな?」
「グット・チャンスが来たよ、ガール達。レッツ・ゴーよ!ってか」
田中は外国人のマネをするよう肩をすくめた。
「なかなか良いこと言うじゃない、アナタ達」
「えっ?」







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