無い物ねだり
「あなた達、ずいぶん意気地無しね。たかだかスリーポイントシュートを一本決められただけじゃない。一回シュートをブロックされただけじゃない。こんなんでヘコんでどうするのよ。勝ちたくないのなら、とっととここを出て行って!」
「す、すいません!」
メンバーは全員、深々と頭を下げた。みんな原因はわかっているのだ。だが払拭できず苦しんでいた。
 監督は空気を替えようとメンバーを二人交代した。ガードの田中とフォワードの佐々木を再びコートへ戻した。同じく表情は硬かったが、直接打撃を受けたわけではないので、いくぶん柔らかい。少しでも起爆剤になればと願った。
 チームメイトの思いに応えるよう、二人は積極的に動いた。スリーポイントを決めた十一番の青山には田中がピッタリはりつき、パスが通らないようにした。佐々木は、精力的にパスカットに挑む。また、シュートもどんどん撃った。ゾーン内ではもちろん、スリーポイントラインの外側からも。帰国子女の二人が繰り出す高いテクニックに振り回されても、けっして怖じ気づかない。果敢に挑んだ。
 そんな彼女達の姿は、チームメイトの折れそうな心を立ち直らせた。勇気を復活させた。
証明するよう、戸塚は青山へ向かうパスをどんどんカットし、追加点が入るのを防いだ。
 第一ピリオドから出ている戸塚は、かなり疲れているに違いない。T大附属の交代で入ったばかりの元気な四人を追いかけるだけでもキツイはず。執拗にパスカットするのは並大抵の気力ではできない。今の戸塚を支えているのは間違いなく、田中、佐々木の精力的な動きだろう。
「ナイス、ディフェンス戸塚っ!」
「パス、絶対通すなっ!」
ベンチも空気が盛り返してきた。第三ピリオドも残すところ後三十秒。電光掲示板に灯るデジタル数字の得点を見れば、二点差で勝っていた。
(厳しぃー!)
青山にスリーポイントシュートを決められた後、お互い四点ずつ追加点を入れた。今はどうにか勝っているが、あと一本決められれば追いつかれてしまう。スリーポイントシュートなら、追い越されてしまう。







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