無い物ねだり
 選手は皆、我がチームのゴール下にいた。T大附属の選手が我がチームのメンバーを外から取り囲んでいるが、負けじとボールを取り合っている。けっしてシュートを撃たせない。シュートを撃つために切り込んで来ようとしても、鉄壁の守りで入れようとしない。
 するとT大附属の遠藤が撃ったミドルシュートが失敗し、リングに弾かれた。それをすかさず井川が取り、リバウンドによるシュートを無事防いだ。
(いいぞ、その調子!あと五十秒で第三ピリオドが終わる。それまで持ちこたえて!)
すると、ピュッと水鉄砲が水を吹くように、ボールが輪の外へ吐き出された。吐き出されたボールは一度バウンドし、戸塚とT大附属の青山の間に入った。二人はボールを追うようすぐにかがんだ。
 私の胸に最高に嫌な感じが広がった。ヤバイ、と思う。
 すると、戸塚が眉間にシワを寄せ青山に向かって手を伸ばした。こちらに背を向けた青山は体を左へひねりかわす。
 青山の胸元を見れば、両手にはボールが抱えられていた。体をゴールへ向ければ、額の上に構えた。戸塚が再びボールを奪おうと手を伸ばすが、それより先に青山がシュートした。
 全てがスローモーションで見えた。心はひどく焦っているのに、なぜかスローモーションで見えた。
 ボールはゾーン内にいる選手達の頭上を越え、ゴールへ向かって飛んでいく。みんな必死に手を伸ばすが届かない。悔しさに顔をゆがめるだけ。
 そしてボールはパサッと音を立て、ネットを揺らした。場内は一瞬シーンとなった。 バンバンッ!と二度バウンドしたボールが床を転がった。転がった先は皮肉にも村井の前。ボールを追ってゴールへ向かっていたのに、気が付けば奪われ、それがネットを揺らしていた。
(そんな、そんな…)
突然『グゥワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』と場内が沸いた。T大附属の選手は青山の周りに寄ってくると、肩を叩いたり拳を突き出したりして讃辞を送った。ギャラリー席にいる応援団も同じ。手に持った色とりどりのメガホンで手を叩き、大喜びしていた。
  









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