無い物ねだり
 電光掲示板を見れば、とうとう追い越されてしまった。歯を食いしばってガンバって来たのに、追い越されてしまった。負けに転じてしまった。
「あぁーっ!点入れられちゃった!」
井川が叫んだ。ベンチにいるみんなは悔しそうに頭を左右に振ったり、うなだれたりした。T大附属チームとは反対に、私達のチームは一気に空気が盛り下がった。どん底だ。特に青山のシュートを防げなかった戸塚は一番ヒドイ。ガックリと床に膝を落とすと、うなだれてしまった。このまま試合を続けるのは非常に難しそうだった。
 するとまるで戸塚を助けるかのように第三ピリオドの終了を知らせるブザーが鳴った。メンバーは全員足取りも重く厳しい表情をしてベンチへ戻ってきた。
 戻ってきたメンバーは皆、無口だった。恩田先生も厳しい表情をしていて、出迎える時『お疲れ』とだけ良い、胸の前で腕を組み考え込んだ。いつものような余裕は感じられない。先生さえ追い込まれていた。
 だからこそ、私はすぐにでも戸塚と変わりたかった。十分しか出られないが、ひどく落ち込んでいる彼女に無理強いして出場させるのは酷だと思った。
 何より、このまま負けたくない。すぐにでも点差をひっくり返し、戸塚の敵を討ちたかった。
(出たい、試合に出たい。…ここで負けたくない。戸塚の分も勝ちたい!)
私は強く思い、恩田先生を見た。恩田先生も、まっすぐに私を見ていて、出場をうながしているように思えた。
 見つめたままいると、恩田先生は私を手招きした。
(いよいよ出番が来た!)
ユニフォームの上に羽織っていた半袖パーカーを脱ぎ、ベンチの上に置いたリュックの中にしまうと、高鳴る心臓を抱え他のメンバーに並ぶようサイドラインに立った。コートを良く見渡せる位置に座っているテーブルオフィシャルとスコアラーという仕事をしている人に、私と戸塚の交代を申請した。
 






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