無い物ねだり
 ただ私は、青山のマークをする事に重きを置いた。戸塚の敵を取るためにも、青山に回ってきたパスをカットしてゴールを決めたかった。
 そんな私に対して青山は値踏みするような目でジロジロと見た。嫌な気分だった。
(大丈夫、こんな視線に負けない。だって私は誰にも負けない実力を、練習を積んで培ってきたんだもの。卑下することなんてない!)
私はやり返すよう、ジロジロ見てやった。すると青山はギロリと私をニラんだ。ムカツイたらしい。良い気分だった。
 私は走りながら右へ左へと移動し、青山の様子を探った。ためすような動きなので、青山もキッチリついてくる。目の前ではメンバーがゴールへ向かい、どんどん進んでいく。私と青山はスリーポイントラインの前で止まり、パスが来るのを待った。
 すると、ボールを持っていた佐々木が、ゴール下で待ちかまえていた村井にパスした。…と思いきや、T大附属の堂島がカットした。鮮やかなテクニックで。あっ、と思った次の瞬間には、私達のいる方へ向かって全力で走って来た。
(また、パスカットされた!)
「なーんか、チョロすぎてつまんない」
「・・・!」
ふいに青山が呟いた。バカにした一言に、私はものすごくカチン!とした。思わず彼女の胸ぐらをつかみそうになった。
(ダメ。暴力沙汰になったら、反則負けするかもしれない。ガマンガマン!)
グッとこらえ、マークを続ける。にぎりしめた拳が強く握りすぎてブルブル震える。すると青山は、さらにバカにするよう鼻で笑った。
「本当、日本人ってガマン強いよね。おかげでこっちはやりたい放題。あー気持ちいい!」
そしてすかさずフェイントをかけ、抜こうとした。
 私は超感覚で前に出て防ぐと、青山をニラみつけた。青山はビックリした。
「口が過ぎるんじゃない、アンタ。アメリカでどんだけ腕を磨いたかしらないけど、エバると価値半減だよ。そろそろやめときな」
すると青山はニヤリと笑った。
「…もしかして、私がうらやましい?」
「別に」










< 169 / 214 >

この作品をシェア

pagetop