無い物ねだり
 それでも何とか一年生の自己紹介が終わると、今度は上級生が歓迎の意を示す番だった。
 こちらは二、三年生の代表…四月になったばかりの生徒会長だけがしゃべるので、楽。ものの五分もあれば終わるだろう。そのあと十二個ある部活の勧誘紹介が終われば会はすべて終了。もちろん私は女子バスケット部の副部長なので、部長と共にお立ち台の上へ上がりる。
 ちなみにお立ち台は、一年生と二、三年生が向かい合って座る間に置かれ、タテ、ヨコ共に一メートル、高さ三十センチある。特に飾りは無く、マイクが置いてあるだけ。芸能人が上がるようなステキな代物ではない。
 そして紹介するのはもっぱら部長の役目。副部長の私は『女子バスケット部』と書いたポスターを持って彼女の隣に立っているだけ。沢山向けられる視線には三十秒ほど耐えればいいだけなので、こちらも楽勝だった。
(今日一番の難関も乗り切ったし。気楽に行くかー)
そんなとき、視界の端に居眠りしている男子生徒を発見した。二年生の男子だ。私はニヤリと笑った。
(やった!私あの子に勝った!寝てないもの!)
グルリと会場内を見渡せば、他にも大勢寝ている生徒を発見し、ますますニヤリと笑った。
(内申点、上がるかもー!)
生徒会長が終われば、いよいよ男子バレー部から勧誘のスピーチが始まり、スムーズに十二の部が終えた。各部少しづつ趣向をこらした事もあり、ダレ気味だった空気も盛り上がり、良い雰囲気の中終了しそうだった。
「ちょっと待ったぁ!」
そんな時、突然元気な声が体育館に響き渡った。そして、一人の男子生徒が私の前列の席から立ち上がった。同じクラスの男子生徒だ。
 私とさほど変わらない身長で、髪は短く、前髪だけを立てている。クルリと振り返ったその顔は、当然よく知っていた。
(新山一成君!)
やっぱり!と思う。そして、危険な胸騒ぎを覚える。第六感が、『彼は嵐を起こす』と叫んでいるからだ。
(めったに当たらないけど、今回は当たる気がする。何か起こらなきゃいいんだけど…)







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