無い物ねだり
「うらやましいクセに。ブッちぎりでシュートを決めたいでしょ?みんなから『すごい』ってほめられたいでしょ?アンタの顔、モロ『負けず嫌い』って書いてあるもの。わかりやすーい。なんなら、イカしたシュートの打ち方でも見せようか?私、アメリカで鍛えてきたから、カッコ良く決める方法知っているよ」
「…そう、だったらやって見せて!」
ダンッ!と私は床を強く踏みならした。さすがに青山は体をビクリと震わせ驚いた。いや、場内にいた大勢の人が『何事だ』と私を見た。
「な、何よ。脅しても無駄よ」
「脅しじゃないわ。『百パーセント防いでやるから、かかって来な』って言ってんの!」
「は?」
「高ーく伸びた天狗の鼻を、へし折ってやるって言ってんの!」
私と青山の横をメンバーが心配そうな顔をして駆け抜けていく。しかし私は気にしない。絶対負けたくなかった。
「行くよ」
そして、青山へ向かってアゴでメンバーを追うよう促した。
「オッケー、受けて立つわ」
青山が言うやいなや、二人同時に全力で走り出した。向かう先は、我がチームのゴール。すでにほとんどのメンバーがいて、気が付けばT大附属の選手がリングにボールを置くようシュートを放った。
(しまった、もうシュートを撃たれた!えーい、入るなっ!)
しかし私の念が飛んだのかボールの軌道がずれ、ゴールには入らなかった。リングにぶつかって外側へ跳ねた。
「リバーンド!」
ボールが跳ねた方にいた選手が、一斉に手を伸ばしジャンプした。すぐに誰かがボールをつかんだが、三、四人一度に飛んだのと、ユニフォームがランニングなので伸ばした手は全員素肌で、誰が誰なのかわからない。ボールを取った人が固まりから出てくるのを待つしかなかった。
(誰?誰が取ったの?)
スリーポイントラインの前で立ち止まったまま、青山にパスが通らないようマークして様子をうかがう。青山もじっと見ている。心臓が緊張で激しく鼓動を打つ。
 一秒後、出てきたのは村井だった。







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