無い物ねだり
(さすが村井!キッチリ、リバウンドを取ったんだ!)
村井は、とてもドリブルをしているとは思えない早さで走りながら、T大附属のゴールへ向かった。彼女の後を多くの選手が追いかけるが、なかなか追いつかない。このピリオドで最後だから、力を出し切るまでやろうと考えているのかもしれない。
 休むことなく試合に出ているのに、ここに来てなお出せる力が残っている彼女のすごさに、改めて感動した。
(よーし、私もがんばるぞ!)
足はまだぜんぜん痛くない。いつものように全力で走れる。私はマークを外そうとする青山に振り切られないよう注意しながら、いつでもパスを受け取れるよう周囲の動きに細心の注意を払った。
 すると村井に、T大附属の選手が襲いかかった。しかし村井は鮮やかにかわし、三好へパスした。パスは無事通り、今度は三好がゴールを目指し走った。
 するとT大附属の選手は今度三好へ襲いかかり、三好はすぐ田中へパスした。
 私は青山と共にボールを追った。ドリブルをしながら先頭を走る田中との間には、村井とT大附属の堂島、いまだ静寂を保っている篠田葉奈がいる。
 出場者リストに印字された身長から側に立った時の彼女達の様子をイメージしていたが、実際に見るとずいぶん大きく感じた。圧迫感もある。それなのに、動きは俊敏。少しもモタモタしていない。だから苦しめられるのだ。
 しかし私は嬉しかった。すごくワクワクした。これほど上手な選手と渡り合える機会など、そうはないから。
(ゴメン、戸塚。私、ヒドイ奴だね)
彼女にあやまりつつ、T大附属のゴール下、ゾーンへ向かった。
 ボールは田中から、佐々木へ渡り、すぐ村井へ渡った。私はスリーポイントラインの前で止まり、青山も止めた。村井はゾーン内の右側へ切り込むと、ジャンプシュートを撃った。たが堂島の左手指先にあたって軌道がずれ、リングに弾かれてしまった。
「リバーンド!」







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