無い物ねだり

周囲からゲキが飛ぶ。とたん村井と佐々木がボールへ向かって手を伸ばし飛んだ。Ｔ大附属の堂島と遠藤も、同じように手を伸ばしボールを奪おうとする。長い手が幾本も伸びる様は、何度見てもイソギンチャクのようだった。
　村井と堂島の間には、少し距離がある。だが堂島は一歩前進しただけで、楽々村井に届きそうだった。
（Ｔ大附属の選手、本当に背が高い！）
佐々木が何とかリバウンドを取ったが、堂島と遠藤は高い身長に見合った長い腕をいかし、奪おうとする。私はいてもたってもいられず、青山のマークを止めると、パスしてもらおうとゾーンへ向かった。
　それは一か八かの掛けだった。パスを取れたとしても、マークをやめた青山に奪われゴールを決められるかもしれない。
（いや、大丈夫。私ならできる！）
「待って！」
ふいに、そばにいた三好が叫んだ。ハッとした次の瞬間、佐々木は堂島の足下へ向かってボールを放ち、堂島の右足もとでワンバウンドさせた。そのボールを村井がしっかり受け取り、すぐ私へ向かって投げた。
　私の頭の中は、向かってくるボールを見つめながら、これからの展開を考え、すごいスピードで稼働した。まるで高性能のパソコンのように。あっと言う間にゴールまでのシナリオを作り上げれば、パスをガッチリ受け取った。
　そしてドリブルせず額の前で構えると、ゴールへ向かってボールを放った。Ｔ大附属の選手が全力で走ってきたが、間に合わない。誰かが来るより早く、私はシュートした。
　ボールは低い高度ながらも、やまなりにラインを描き落ちてゆく。Ｔ大附属の選手が必死に手を伸ばすが届かない。
　そのまま誰からの攻撃も受けることなく、サッと音をたててネットを揺らした。
「ナイスシュート、漆原！」
ゴール下にいた村井が嬉々とした声で叫んだ。彼女の声を聞いた私は、嬉しさのあまり鳥肌が立った。大舞台で活躍するのは気持ちよかった。
　コートにいたメンバーも両手をあげ喜んでくれた。ベンチやギャラリー席にいる選手達は飛ぶように立ち上がると、抱き合ったり、手に持っているメガホンやうちわを千切れそうなほど降ってくれた。