無い物ねだり
 みんなを見ていたら、幸せな気持ちになった。勇気が沸いてきた。
(よーし、もっとがんばるぞ!)
点数は三点を取り返し、再び勝ちに転じた。T大附属の青山を見れば、『まあまあね』と言った顔でいた。焦っている様子はない。すぐにでも点を取り返す自信があるのだろう。
 流れと雰囲気を維持しようと、村井は早めに試合を進めようとした。メンバーは全員同じ考えだったので、モタモタすることなく相手チームのスローインへ注目した。
 T大附属の選手はコートの中へボールを戻し入れると、ゴールへ向かって冷静に素早く運んだ。我がチームはガード陣が先にゴールへ戻って待ちかまえ、フォワード陣やセンターの村井はパスカットするため、ボールを運んでいる選手やパスの来そうな選手に張り付いた。
 私は再び青山のマークに戻った。不敵な笑いを浮かべているのが気になるし、同じフォワードとして、レベルの高い動きをしている彼女に真っ向から勝負を挑みたかった。
 センターサークルを超え相手チームのコートにさしかかった時、早くもチャンスが訪れた。遠藤が青山にパスしようとしたのだ。
(とうとう来た!)
さきほどスリーポイントシュートを決めた事から推測して、再び点を取り返すためには、青山に頼るのが一番確率が高い。遠藤は私の予想通り、青山にシュートを撃たせる気なのだ。
(青山のあの安定感、かなりスリーポイントシュートが得意なんだろうな。よし、負けないでパスカットするぞ!)
 私は二人の間に入ると、壁になったつもりで遠藤から青山が見えないよう、右へ左へ移動した。遠藤はドリブルしながら私をかわし青山へパスしようとするが、私が邪魔になりどうしてもできない。だんだん顔が下向きになり、眉間にはシワが寄っていく。上目使いで見る顔はまるで般若だ。そうとうイライラしているに違いない。
(いいぞ、もっとイライラしろ。そうしたら、冷静な判断ができなくなるから)
と、思ったとたん、遠藤はドリブルしたまま私に背を向けた。








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