無い物ねだり
(チャンス!)
その瞬間、待ってましたとばかりに右手でボールの横側を叩いた。ボールは左の方へ飛び、床を一度バウンドした。私は引っ張られるよう体をひねり、左手でボールを取った。フェイク成功である。
(よしっ!)
左足で床を踏みしめると、ドリブルしながら青山の横をすり抜け前へ進んだ。勝負に勝利し、とても気分がよかった。
 センターラインのあたりには三好がいて、パスを待っていた。その先には佐々木と村井、ゴール下には田中がいて、T大附属の選手が一人ずつマークについていた。
(敵は多いけど、仲間が良い位置にいる。ボールを持ち続けないでパスを回す方が得策だ!)
三好にパスし、ゴールへ向かって走った。後ろからは青山が追いかけて来ている。私をマークするつもりなのだろう。
 だが私をマークする暇は無かった。村井があっという間にジャンプシュートを決めたのだ。
「よしっ!」
村井が力強くガッツポーズした。勝負が拮抗しているだけに、追加点が入ったのはとても嬉しい。メンバーも同じ気持ちなのだろう。笑顔が戻ってきた。
 対し、T大附属は表情が固くなった。あきらかに、してやられた事に腹を立てている。『反撃してやる!』と言う顔をしている。
(いいよ、どんどんかかってきて。絶対負けないから!)
私はニンマリ笑って見てやった。青山は相変わらずムッとした顔をしていた。私がマークしてからスリーポイントシュートを一本も撃てていない。邪魔ばかりする私が憎くてしょうがないのだろう。
(でも、これからもっと憎くなる。…戸塚の思いを背負っている私は最強なの。あなたには、けっしてスリーポイントシュートを撃たせない!)
ここで再び佐々木と田中が出て、山之内と井川がコートへ戻った。佐々木、田中共に疲れが見えたので、元気な二人にがんばってもらおうと思ったのだ。






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