無い物ねだり
 我がチームの選手交代が終わるとすぐ、T大附属の大島がコートにボールを投げ入れた。私はさっきよりもっとガッチリ青山をマークした。より確実に勝つために、追加点を入れさせないつもりだった。
 青山へ来たボールはほとんどカットし、すぐチームメイトへパスした。リバウンドさえ、ほとんど取らせない。おかげで彼女はボールに触れることができなかった。
 対し、私は三本も決めた。アシストパス(シュートにつながるパス)もした。篠田のパスワークのうまさに苦しめられたが、あきらめず攻めたのが良かった。
 残り時間二分。青山は肩を大きく上下させ、額に汗し、私を『チクショーッ!』と叫びそうな顔で見た。よく見れば顔だけじゃなく、握りしめた両方の拳までブルブルと震えていた。鬼気迫る形相に、背後に炎が見えそうだった。
(うはーっ、怖い!…だけど、まだ終わらない。まだ試合は続くし、もっと点数を入れる。でも、スポーツマンらしく爽やかにいこう。かみついたりしないでよね!)
再び青山へ来たパスをカットし、ゴールへ向かって走った。右足に痛みはなく、息もまったく上がっていない。ロードワークで鍛えた体は、七分間走りっぱなしでも問題ないほど強靱になっていた。
(ミニバス時代も思ったけど、中学も練習した分だけ強くなった。努力は私を裏切らないんだ!)
素早い動きでドリブルしながらハーフコートについた。そこで待っていた三好にパスし、ゴール側にあるスリーポイントラインまで走った。後ろにはピッタリ青山が着いてきている。止まれば彼女も止まり、私の視界をふさぐよう前に立った。なんだか仕返しされている気がした。
 私より背が十センチ高い青山は、目の前に立っただけで圧迫感がある。一本でもパスカットしようと気迫に燃える今、さらに大きく感じる。だが私は臆さない。強気で行く。
 ボールはアウトゾーン(ゴール下の白線で仕切られた台形の外側)にいる三好からゴール下にいる佐々木に渡った。しかし佐々木についているマーク、篠田葉奈はいち早くボールに反応しパスカットした。青山は弾かれるよう我がチームのゴールへ向かって走り出した。今までで一番気合いの入った走りだ。
 





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