無い物ねだり
 もちろん、私も走る。すぐ追いつけば、青山に回ってきたパスをカットし、井川へパスした。青山は必死になってボールに触ろうとした。しかし必死のあまり肩に力が入りうまく取れない。空回りしてしまっている。
 井川は少しドリブルしながら走ると、三好へパスし、三好は山之内へパスした。山之内へボールが渡ったのは、相手チームのゴール前。そこではT大附属の選手が大勢守っていて、埋もれそうになりながら村井がいた。村井は負けじと動きながらパスを待っていた。
 私もみんなの側へ行こうと、力一杯走った。
「・・・!」
すると突然、右足首がズキッと痛んだ。気のせいだと思い走り続けたが、やはり右足首はズキズキと痛みを訴える。そして痛みは走った分だけひどくなった。
 両チームのベンチに挟まれるよう、ギャラリー二階席に取り付けられた電光掲示板を見れば、残り時間はまだ一分四十秒もある。第四ピリオド終了まであと少しなのに、注射してから時間が経ったのと、激しい動きをしたせいで、薬の効果が切れたのかも知れない。
(大丈夫、あと少しだから。気合で持たせよう!)
必死に自分を励ます。しかし痛みはどんどんひどくなる。立っているのもやっとだ。今にも座り込んでしまいたい。
 だが目の前では仲間が一生懸命戦っている。ここで座り込んだり具合悪い顔をしたら、みんな不安になり、盛り上がった空気をまた盛り下げてしまう。第一、青山をフリーにしたら、ヤラれっぱなしになる。彼女を止める担当は私。みんなは強敵を前に自分の役割をこなすので精一杯だ。私の方まで手を貸せない。
(何が何でも、石にかじりついてでもがんばらなきゃ!)
再び電光掲示板を見た。
(残り一分四十秒。これまで毎日激しい練習に耐えてきた。痛みにも絶対耐えられる!)
私は拳をきつく握りしめると、T大附属の選手を見すえた。
(必ず、勝つ!)
決意を固めると、全力で走った。どんなに痛くても全力で走った。みんなのために走った。








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