無い物ねだり
 青山はすでに我がチームのゴール下にいた。私がいない分、邪魔されず色んな事がスムーズにできていた。リバウンドを取るのも、パスカットするのも、パスを受け取るのも、どれも先ほどまでがウソのようにスムーズに出来ていた。気分も良いらしく、顔が晴れやかだった。
 そんな青山が攻めているのは、村井や三好。彼女達は全国でもトップクラスのプレーヤーで、指導者や全国のプレイヤーから高い評価を受けている。しかし今の村井や三好はすっかり青山のディフェンスに押され、パスも満足に出来ず苦戦していた。私は手助け出来ず、悲しかった。
 そんな中、チームメイトは私の動きがおかしいことに気づきだしていた。ドリブルをしたり、パスカットしようとしているメンバーは動くことに必死だが、サポートに入ろうとしているメンバーは余力があるので、わかったらしい。証拠に山之内や井川が心配そうな顔で私を見ていた。
(私の事なら大丈夫。心配しないでプレーに集中して)
これ以上不安をかけないようにするために『大丈夫』を知らせようと親指をたて、無理矢理笑った。すると、ようやくみんなはプレーに集中しだした。
(本当に、みんな良い人だな。私の様子が少しおかしくなっただけで心配してくれた。私、顔には出てないけど、すごく嬉しい。心が温かくなる。…この部に入って、本当によかった)
心の底から思った。
 私は少しでも役に立ちたくて、一生懸命ゴールへ向かった。
 ゴールのすぐ側には篠田葉奈がいる。私が不調の今、篠田にパスが回れば、瞬く間にゴールへボールが運ばれ、シュートを決められてしまう。点差があって勝ってはいるものの、大きく離れてはいない。何としてもパスを通してはならなかった。
 思ったとたん、ボールが篠田へ渡った。青山がリバウンドを取りパスしたのだ。
 するとT大附属の選手は、篠田と遠藤を先頭にゴールへ向かい走り出した。ボールは大島へ渡り、あっという間にコートの真ん中を越えた。私は何とか青山に追いつきマークすると、パスを通さないよう大島を見た。







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