無い物ねだり
我がクラスメイトにうやうやしくお辞儀をすると、英国紳士のように胸を張り堂々と歩いていく。新山の顔はとても自信と野望に満ちていて、お立ち台に乗れば、今度は全校生徒へ向かって三百六十度周りながらお辞儀した。これだけで二十人くらいクスリと笑った。もちろん新山は、特段変わった様子はない。
(うわー度胸あるなー。私だったらプライドを傷つけられた気がしてヘコみそうだけど。さすが!)
なぜ『さすが』と思ったかと言うと、彼は転校してきてまだ二週間しか経っていない。それなのにあっという間にクラスにとけ込み、かつこの二週間、いつもあかるく振る舞っていた。暗く沈んでいた時は一秒とない。暇さえあれば、誰彼と無くギャグを言い、突っ込んで笑わせていた。
 彼の周りには常に笑いが起き、賑やかだった。
(それにしても、あの英国紳士のように優雅なお辞儀、きっと何かたくらんでいる。たぶん、全校生徒をクラスメイトのようにドッカーン!と笑わせるつもりなんだ。すっごーい!)
自分の事で精一杯の私は、自分とは正反対の彼の行動にすごく感心した。
 新山はうやうやしく顔を上げると後ろに手を回し、今度は応援団のように胸を張った。すると全員の目が『何をする気なんだ?』と釘付けになった。
「俺は三年四組、新山一成!新山の『にい』は新聞の『新』、『やま』は富士山の『山』、一成の『かず』は一番目の『一』で、『なり』は成田空港の『成』。みんな、覚えか?」
「急に言われても覚えられませーん!」
後輩達はゲラゲラと笑った。先生達もニヤニヤしている。居眠りしていた生徒は全員『何事だ?』と目を覚ました。
「そんな事ない。この学校の生徒は秀才揃いだと聞きたぜ。さ、もう一回言うから、ちゃんと覚えろよ。俺、出来るだけ早くみんなと仲良くなりたいから」
「イヤだよーっ!」
「まあ、そう言わずに」
新山は口に手をあて『コホン』と咳払いすると、一つ大きく深呼吸した。
「もう一回言うぜ。俺は一年四組、新山一成!新山の『にい』は新聞の『新』、『やま』は富士山の『山』、一成の『かず』は一番目の『一』で、『なり』は成田空港の『成』。みんな、覚えたか?」



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