無い物ねだり
 ギャラリー席にいる風亜達も激しく動揺し、『涼ちゃん、どうしたのかな?』と顔を見合わせていた。我がチームに再び嫌な空気が漂いだした。
「緑成館の選手は、速やかに並んで下さい」
動揺してスムーズに動けない私達に、主審は指示を出す。私達は『はい』と素直に頷き、ゴール下、台形になっている斜めの線の、右と左に三人対二人に分かれ並んだ。間にはT大附属の選手が入る。つまり我がチームとT大附属の選手が交互にならんでいるのだ 私の隣には、篠田葉奈が並んだ。その向こうに青山がいる。青山はゴールの真正面、白いテープを台形に貼った上のライン前に立っていた。しかし私を見ようとしない。シュートを撃つために集中力を上げようと、目をつぶりボールに額をくっつけている。大事な点だから、一本でも外したくないのだろう。
(それとも…緊張している?)
思ったとたん、キリリとしたまなざしでゴールを見た。戦闘モードに入ったらしい。
 そんな彼女を見ていたら、だんだん心が沈んできた。私が熱くなったばかりに、みんなに迷惑をかけてしまった。右足の痛みもあいまって、申し訳なさが胸の中に広まった。
 すると、チラリと青山が私を見た。彼女の目は私をバカにしていた。
 私はカッチーン!とした。プライドが傷ついた。
(そんな風にお高く止まっていられるのは今だけ。余裕でフリースロー出来るのは今だけ。今度は絶対!ファールしないから。絶対、撃たせないから!)
私は青山の横顔をキリリとニラんだ。しかし青山は少しもひるんだりせず、再びゴールを目指した。いよいよシュートする気らしい。
 一瞬、場内がシーンとなった。場内にいる全員が、彼女の行方を見守った。
 私は無意識のうちに『スッ、ハーッ』と、張りつめた呼吸を繰り返していた。『フリースローでシュート出来るのは今だけ』なんて心の中で強気な発言をしたが、心の片隅では違う事を考えていた。
『本当はシュートして欲しくない。追加点を、それも三本も入れられたら、もう巻き返せないかもしれない』
と、弱気な事を思っていた。そんな思いが呼吸に現れているのかもしれない。






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