無い物ねだり
「まだ時間あるよ。へコんでいないで、次行こう!」
「そうだよ。これっくらいでヘコむなんて、強気の漆原らしくないよ!」
田中先輩も言った。
「そうだーっ!涼ちゃん、がんばれーっ!」
「みんな、応援しているよ!」
「涼は天才スリーポイントシューターだもん。こんなところで終わったりしないよ!」
ギャラリー席を見れば、風亜や同じ三年生のメンバーがエールを送ってくれていた。さらに隣には、母だけじゃなく父もいた。父はスーツ姿だった。おそらく私を応援するために、仕事を抜けてきてくれたのだろう。
 右足首の痛みと、ファールしてみんなに迷惑をかけた分を取り返えさなければならない苦しみにうちひしがれている今、父と母の姿は私を百二十パーセント勇気づけた。どんな時も味方でいてくれた彼らの姿を見ただけで、胸がジーンとした。目頭が熱くなり、涙が溢れそうになった。
「リョーッ!ガンバレ!お前なら出来る!父さんはお前が誰よりも努力していた事、ちゃんと知っているぞ。だからあきらめるな。絶対勝てるから!」
「そうよ、決してあきらめないで!」
父と母は大きな声で言った。部のみんなの応援に負けないくらい、大きな声で言った。私はもっとジーンとした。人目もはばからず泣いてしまいそうだった。
(もう、そんなに大きな声で叫んだら喉が痛くなっちゃうよ。声が枯れちゃうよ!)
私は上を向いて涙が流れないようにした。泣く姿を見られるのは恥ずかしい。
(…ありがとう、父さん、母さん!)
枯れかけた勇気の泉がまたわき上がる。チームのメンバーのお父さんやお母さんまで応援してくれれば、噴水のように勢いよく沸き上がった。
(もうヘコんだりしない。後ろ向きな気持ちになったりしない)
私は心の中で誓った。もう一度、力が尽きるまで戦うと。
 すると勇気の炎に情熱の炎が加わった。全身を熱い血が駆けめぐる。
(みんなのために力一杯ガンバル!)
ギャラリー席にいる風亜やチームのメンバー、両親に誓うよう手を振ると、みんなは嬉しそうに振り返してくれた。そんな彼らを見ていたら、もっと勇気が沸いてきた。






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