無い物ねだり
 再び試合を続行するため、我がチームのエンドライン前に篠田葉奈が立った。篠田はこれまでになく、緊張した面持ちで私達を見た。
 残り時間一分と二十秒。お互い全力で戦いに行くだろうが、ちょっとした判断ミスで得点を入れられる可能性が高い。もう失敗は許されない。彼女が緊張せずにいられない気持ちもよくわかる。
「ビーッ!」
とたん、試合再開を知らせるブザーが鳴った。篠田は迷う事なく、左斜め前へボールを放った。
 ボールを取ったのは、青山だった。青山はスリーポイントシュートだけでなく、フェイントの技術も高い。そのため、あまりパスをせず、早くゴールに着くことが出来る。得点するチャンスが上がると言うわけだ。
 私は痛む足をかばいもせず、全力で青山を追いかけた。しかし痛みはますますひどくなり、集中力や体力、気力を奪っていく。くじけそうになる気持ちを必死に奮い立たせ、足を動かし、確実に青山へ近付いた。辿り着けばパスカットしようと手を伸ばした。
「あっ!」
だがやはり、軽々とかわされた。痛む右足に負担のかかる、細かい動きにも必死に着いていったのに。痛みが体の自由を奪ったのだ。
(くっ、悔しい!でも、さっきみたいに熱くはならない。みんなのために冷静になる!)
T大附属は大島にパスし、そのボールをスリーポイントラインの前に立った青山が待っていた。私が不調なのを知っていて、あえてスリーポイントシュートを狙っているのだ。『今なら漆原に邪魔されることなく決められる』と言わんばかりに。
 私はそんな青山をニラんだまま、ハアッ、ハアッ、と洗い呼吸を繰り返しながら近付く。さきほど青山をマークした事でさらに足の痛みは増し、立っている事さえ辛いが、止めに行かずにはいられない。止めなければ負けてしまうから。
周りにいた三好や井川が止めようとするが、少し遠い。おまけに青山を守るよう、遠藤が立ちはだかる。ただ走って辿り着くだけでもギリギリなのに、壁が出来ては乗り越えなければならないので、ますます辿り着けない。その間にシュートされてしまいそうだった。
 






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