無い物ねだり

（二人共、間に合って。間に合って。間に合ってっ！）
私は念じながら走った。もし自分が辿り着けなくても、二人が辿り着ければいいと思って。
　しかし井川は全く届かず、左から止めに言った三好は遠藤に遮られ、どうしても青山に近づけない。遠藤がまるで三好の心を読んだかのように行く手を阻むのだ。
（もしかして恩田先生が言っていた『遠藤に苦しめられた』って、こういう事？だって、三好は目的地のすぐ側にいるのに、ぜんぜんっ！進めない。もう、見ている私の方が最高にイライラする！）
とたん、青山はシュートを撃った。
「あっ！」
青山は一瞬の隙をついてシュートした。襲いかかってくるライバルの猛攻をかわしての、すばらしい判断力で。
　同時に、私はショックを受けた。これが決まれば点差はさらに開く。負け街道まっしぐらだ。
　と思った次の瞬間、右側から来た誰かがボールの横っ面をひっぱたいた。
「・・・！」
村井だ。なんとかマークを外し、やって来たのだ。すぐ後ろにはＴ大附属の堂島がいた。堂島は今にも飛びかかりそうな勢いで、長い手を前に伸ばしていた。
「キャーッ！ナイスブロック、村井！」
「もう、スゴイ！すごすぎっ！」
そばにいた選手が、村井がはたき落とした玉を拾いに行きながら叫んだ。そう、まさにスーパープレー。あと一秒遅かったら、間違いなくシュートは決まっていたから。
　井川がボールを拾うと、再びＴ大附属が守るゴールへ向かって走った。そんな井川の顔は、ものすごくヤル気に満ちていた。村井のシュートブロックを見て、勇気をもらったようだ。
　いや、井川だけじゃなく、みんなが勇気をもらっていた。苦しい状況なのに、みんなあきらめず、果敢に戦いへ挑んでいた。
（よーし、私も負けないぞ。一本でも多く止めるぞ。シュートするぞ！）
とたん、右足の外側を下にするよう、足が内側へ曲がった。当然体はバランスを崩し、右斜め前へ傾いた。立て直そうとするが、足は言うことを聞かない。重力に引っ張られ下へ向かって落ちていく。