無い物ねだり
 『ヤバイ』と思った次の瞬間、バッターン!と大きな音をたてて、前のめりに倒れた。誰かがすぐ側で『あっ!』と叫んだのが聞こえた。
(ごめん、みんな。私の事は気にしないでガンバって!)
しかし私の転倒に引っ張られるよう、シュートも失敗。さらにリバウンドを取るも、篠田葉奈にコートの外へはじき出されてしまった。同時に、私の異変に気づいた主審が試合を止めた。
(とうとう、この時が来たか…コートを出されかもしれない時が)
ある程度は予想していた。やっと歩いているようなケガ人を、試合に出せるわけがない。気づかれれば、退場させられるだろう。
 ドドドドドドドド!と大人数で走る足音が近付いてくる。側で止まれば、全員がかがんだ。
「漆原、大丈夫?」
「右足、痛い?」
声の主は、チームメイト達だった。さすがに心配になって、様子を見に来てくれたらしい。私はメンバーにできるだけ心配をかけまいと立ち上がるが、脳天を突き抜ける激痛にうめいてしまった。いの一番で駆けつけてくれた三好はいたわるような目で見ると、私の右足首をそっと触った。隠そうにも痛みのため動かせなかった。
「すごい腫れ!こんなに腫れているのに、今までよく走っていたね」
「そんなにヒドいの?」
「私だったら、歩くことすら辛いと思う」
「そうだね。さっきからずっとキツそうな顔していたものね」
井川が言った。
「試合の最中だったから止められなくてここまで来たけど、私も気づいていた」
村井が言うと、みんなは申し訳なさそうに顔を見合わせた。
「ごめん、心配かけて。でも、あと四十秒くらいだから、がんばって出るよ」
「ダメよ。すぐ戸塚と交代して」
村井はキッパリ言った。ある程度予想してはいたが、ここまでキッパリ言われるとショックだった。ダメ押しのように恩田先生を呼んだ。どう考えても百パーセントの確率で交代を命じられるだろう。
 最後まで出たかったのに、中途半端で終わってしまう。こんな足にした片平を再び恨みたくなった。







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