無い物ねだり
「いいえ、ヤル気十分です!ですから残り四十秒、このまま出場させて下さい!」
私は恩田先生と戸塚に向かって頭を下げた。右足首はとても痛かったが、彼女達の恩に報いるためにも、全力でがんばるつもりだった。
「主審、選手の交代はしません。このままいきます」
「しかし七番は、非常に足を痛がっているように見えます。とても他の選手のように動けるとは思えません。何かあったら、どうするんですか」
「大丈夫です。何かあったら私が責任を取ります」
「しかし…」
「あなたには迷惑をかけません。ですから、彼女をこのまま出場させてください!」
恩田先生は珍しく詰め寄った。主審は迷惑そうな顔をしながらも一瞬考え込み、仕方なく頷いた。恩田先生の熱意が通じたようだ。
「…わかりました。七番、すみやかに持ち場へ戻って下さい」
「はい、ありがとうございます!」
私は嬉しくて、主審に向かって深々と頭を下げた。そして、思わず神様に報告するようガッツポーズした。もう一度恩田先生に礼をすれば、『がんばっといで』と言わんばかりに大きく頷いた。私は決意も新たにコートへ向かった。
 恩田先生は選手思いの人なのだと改めて思った。彼女の指導は半端なく厳しいが、メンバーは誰も文句を言わない。ちゃんと着いて行っている。それは彼女が選手を思いやって指導しているからだろう。
「涼ちゃーん、がんばってっ!涼ちゃんがいれば、絶対勝てるからーっ!」
後ろを振り返ると、風亜達がさらにうちわを激しく振って応援していた。私は応えるよう『ガンバル!』と拳を突き出した。するとギャラリー席にいる他のメンバーも、大声援を送ってくれた。
 新山を見れば、右の拳を突き出していた。まるで私の拳と合わせるように。なんだか彼から最大のエネルギーをもらった気がした。
(サンキュー、新山君。絶対、勝つからね!)
コートに戻ると、試合に意識を集中した。残り時間からしてシュートを撃てるのは、あと一本か二本。しかし、ここできっちりディフェンスをし、必ずシュートを決めるつもりだった。






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