無い物ねだり
「や、やったーっ!追加点だーっ!」
「三点取り返したっ!」
コートにいた選手もギャラリー席にいた応援団も、大いに喜んだ。私は側にいたメンバーと喜びを分かち合うと、少しホッとして電光掲示板を見た。
(あと、三点。あと三点取れれば勝てる!悲願のT大附属撃破の夢が叶う!)
残り時間は十六秒。ギリギリ一本決められるかどうかの時間だ。いよいよドキドキしてきた。また不安にもなった。
 すると村井が側にやって来て、私に耳打ちした。
「漆原、プレッシャーをかけるようで悪いんだけど、シュートを失敗する余裕はないから。必ず決めて!」
「もちろん!」
「オッケー。ゴール前で必ずパスを出すから、よろしくね」
「うん、お願い!」
村井が持ち場へ戻れば、左手に拳をつくって右手を広げ、胸の高さで勢いよく打ち合わせた。右足はまだ痛かったが、シュートを一本決めた喜びのおかげで、和らいだ気がした。
(残り十六秒。命がけで行く!)
ほどなくして、T大附属の大島がゴール奥にあるエンドラインの外に立った。ボールを素早く頭の上へ抱え上げれば、迷わずコートの中へ投げ入れた。
 すると、四、五人が一斉に飛びついた。我がチームはフォワード、T大附属はガードのポジションについている選手が。
「行けーっ!」
堂島はフォワードの選手に向かってゲキを飛ばす。少しでも私達のコートへボールを運び点を入れさせないつもりなのだ。
大島が投げ込んだボールを争って一斉に群がっていた選手達も、チームに関係なくこの一言に刺激され、我が校のコートを見た。とたん、一人の選手が飛び出した。
 ボールを持っていたのは、遠藤彩花だった。遠藤はすごいスピードでドリブルしながらコートを駆け抜け、我が校のメンバーに囲まれれば、篠田葉奈にパスした。
(うまいっ!前から二人、後ろから一人に囲まれ四方八方からボールを取られそうなのに、前二人の間にある隙間を縫ってパスを通した。すごすぎるっ!)
 





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