無い物ねだり
「や…」
全身の血が、沸騰した。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
嬉しくて、沸騰した。
 とたん、ぐっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!と場内が盛り上がった。ベンチにいる選手も、ギャラリー席にいる応援団も飛び上がるように立ち上がると、そばにいる人と手を握ったり抱き合ったりして、私達の勝利を力一杯喜んでくれた。恩田先生も珍しく満足そうな笑顔で頷いてくれた。
 村井を先頭に私のところへ走り寄ってきたメンバーは、私を見ると力一杯抱きしめてくれた。全員、涙を流していた。悲願だった打倒T大附属が叶い、本当に嬉しかったのだ。
「ナイス、スリーポイントシュート!」
「漆原は、うちの守護神だ!」
「よくやった、よくやったよ漆原!」
ひとしきり抱きしめてくれると、今度は互いの健闘をたたえ、肩を叩いたり上げた手を打ち合わせたりした。
 対し、T大附属は暗い雰囲気に包まれていた。メンバーは全員悔しい思いを吐き出すよう、目から大粒の涙を流していた。強気でいた青山さえ、ボロボロと泣いていた。
 彼女達もここへ来るまで多くの物を犠牲にして、毎日練習して来たに違いない。なのに、ここで全て終わってしまうのかと思うと、自分の行動を全て否定された気がし、悔しくて切ないに違いない。また、T大附属もチームのほとんどが三年生。進路も別々になるだろうから、このチームで試合をするのも、これが最後かもしれない。そう考えると、よけい切なさが増すのだろう。
(優勝常連校がいつも優勝できるとは限らない。私達のように想像以上に力をつけ撃破される可能性だってあるのだから)
試合終了の礼をするためメンバーに両脇を支えられ、センターラインに向かいながら思った。T大附属と向かい合わせになるよう立てば、さらに思いを強めた。勝負の世界は厳しい。上には上がいる。一瞬でも気を抜けば、即、奈落の底へ突き落とされるだろう。
「一同、気をつけ、礼っ!」
「ありがとうございました!」
主審のキリリとした仕切りに釣られるよう礼をした。『とうとう全国大会が終わったんだ』と実感した。







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