無い物ねだり
 礼を終えると、青山の前に立ち右手を差し出した。青山は一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐ笑顔になり、私の手を握った。
「悔しいけど、あなた良いスリーポイントシュートするね」
「ありがとう。でも、青山さんもだよ。マジでヤバイって思った時、たくさんあったもの」
「次は高校へ入ってからだね。またバスケやるんでしょ?」
「もちろん!バスケ、大好きだから」
「今度は負けないから」
「いいえ、次勝つのも私よ」
「すごい強気!」
青山は笑うと、みんなのところへ行った。私はまた一人良いライバルを得て嬉しかった。 チームメイトのところへ戻ると、今度はT大附属のベンチ前に整列し、ベンチ入りしている監督やメンバー、ギャラリー席にいる人達に礼をした。T大附属の監督は一応拍手してくれたが、苦笑いしていた。しょうがないと言えば、しょうがない。
 そして次は我がチームのベンチ前で整列し、ベンチにいる恩田先生やメンバー、ギャラリー席にいる応援団に向かって一礼した。応援してくれた事に対してお礼の意を示すためだ。みんなは盛大な拍手とともに、心から健闘をねぎらってくれた。
(そういえば…!)
ふと思い出し顔を上げると、新山と進藤の姿を探した。しかし風亜達の側にはおらず、近所にももちろんいなかった。荷物もないようだった。
(もう帰ったっていうの?まだ応援に来てくれたお礼も言ってないのに!)
なんだか悲しくなり、見落としていないか何度も何度も見返した。しかし、やはりいない。そのうち見知らぬ中高年の女性や男性がゾロゾロやって来て、座ってしまった。持ってきた紙袋や大振りのバックから色とりどりのメガホンを取り出せば、次の試合をするために入場してきた選手達に手を振った。選手達の保護者だろう。
―もう、新山とは恋の縁が切れてしまった気がした。完全にトドメを刺された気さえした。―
「漆原、早く荷物片づけて!次のチームが来ているからジャマになる!」







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