無い物ねだり
「いいなぁー。どうやったら出来るんだろう。私、このまま行ったら高校に入るまで出来ないよ」
「よーし。こうなったら根掘り葉掘り聞き出してイジってやる。覚悟しときなさいよ、漆原!」
二人は右手を挙げると、『オォーッ!』と雄叫びを上げた。試合が終わったばかりなのに、また始まりそうな勢いだ。強豪チームのメンバーといえど、年頃の乙女。恋バナは盛り上がらずにいられないのだ。
「ちょっとみんな!次の試合をするチームが来たって言ってるでしょ。早く片づけなさいっ!」
「す、すいませーん!」
とうとう恩田先生に怒られ、全員大あわてで片づけた。終えれば脱兎のごとく走りアリーナを飛び出した。これには、次に来た男子バスケットチームのメンバーも笑いを隠せず、ニヤニヤしながら後ろ姿を見送った。
 一足先にアリーナを飛び出した私は、売店へ向かう途中、新山の姿を探してあたりを見回した。まだ男子バスケットの決勝が残っているが、出場選手や父兄の多くはすでにアリーナにいるので人はまばらだった。私服姿の彼を間近で見るのはこれが初めてだが、すぐに見つけられそうだった。
(どこに行ったのかな、新山君。やっぱり帰ったのかな?)
痛い足を引きずり、目的地である売店へ行ってみる。応援したら喉が渇いたりおなかが減って食べ物や飲み物を買いに来たのかも知れないと思ったのだ
 だがやはり、売店にも新山の姿はなかった。一緒に来た友人の進藤さえいない。
(本当に帰ったのかもしれない。…もうあきらめて、みんなのところへ戻ろうかな。今後ためにも、できるだけ早く病院へ行って治療しなければならない…お礼は、次合った時に言うことにするか)
足の痛みもあってか、珍しく粘れなかった。かなり、あきらめモードに入っていた。
「おい、不良ケガ人。治療もしないで買い食いか?」
「・・・!」
突然、新山の声がした。振り返ると、声の主がちゃんといた。進藤もいた。新山はハンカチで手を拭き、右ポケットにしまった。二人の向こうにはトイレのマークが見えた。






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