無い物ねだり
第一章
 私の名前は、ウルシハラ・リョウ。漢字で書くと、漆原・涼。北海道で一番大きい街、札幌市の西区にある私立高校、緑成館中学に通う三年生。性別は一応、女。なのに『アイツ』は、その事実を受け入れようとしない。確かに背は百七十センチと男子並みに大きいので、『マジ、デカッ!』と驚かれてもしょうがないけど。
 でも彼は、一瞬じゃない。ずっと思っている。
―そうでなければ、イジメたりしないはず。―
本当に悔しい。力ずくでも考えを改めさせたい。もう胸をしめ付けるような苦しみから逃げたい!
(アイツはどうしたら私を受け入れてくれるのだろう…)
朝、登校しようと家の玄関を出ると、一人そっとため息をもらした。
 私の通う中学は、自宅から徒歩で四十分かかる。けっこう遠い。私は体育会系の部活に所属しているだが、ミッチリしごかれた後帰るのはハッキリ言って地獄。せめて自転車に乗って帰りたい。もちろん校則で土日以外出来ないのだが。
 私は、女子バスケット部に所属している。このバスケット部の実力は全国でもトップクラスで、嬉しいことに私はレギュラーメンバーで副部長の座をもらっていた。それは、すばらしいことだった。
 わがチームは全国各地から『名のあるチームで活躍したい』という選手が集まって来ている。入るためにわざわざ転校してきた生徒までいる。だから、どの人も本当にうまい。その中で選ばれた者だけが、緑成館の名を背負ってコートに立つことができる。
 それは非常に『狭き門』だった。多くの部員はベンチ入りすらかなわず、泣きながら応援席に座る。そして活躍するメンバーに声援を送っただけで中学生活を終えてしまう。私がどれだけ恵まれているか、わかるだろう。こればかりは、心から神に感謝している。
 そんなメンバーのためにも活躍できるよう、少しでも体を鍛え、目前に控えた全国中学バスケットボール大会…略して『全中』できっちり努めを果たしたかった。
―そして、優勝したい。カッコ良く卒業したい!―




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