無い物ねだり
「ずいぶんヘソ曲がりね!どうせならシュート曲げなさいよ。得点率も上がって、エースストライカーになれるわよ!」
「な、なにダジャレ言ってんだよ!漆原はクールな女だろ。ダジャレ言うなんて合わねぇよ!とっととやめろ!」
「似合うか似合わないかは私が決めるの。あなたにアレコレ言われる筋合いはない!」
カチン!としたのでニラんでやった。確かにクールだが、シャレが似合わないとはヒドイ。言い過ぎだ。
「あのね、これも私なの。クールだけが私じゃない!」
「でも変だ。チョー違和感がある」
「新山君は私の片面しかみていないのよ。私だって、シャレの一つくらい言うわ。学校でいつも仏頂面していたのは、新山君とケンカしていたから。イジメなんて、大っ嫌い!何も悪いことしていないのに、辛く当たられるなんて許せなかった。だから、どんなにヒドイ事を言われてもされても負けないように、クールを貫いたの」
「悪かったよ。…でも、ダジャレ言っている漆原はイヤだ」
「そんなの私の勝手でしょ!第一、部活をしている間はみんな優しいから、仏頂面する必要がない。シャレの一つくらい言うわ」
「やめろって言っているだろ」
「しつこいわね。やめないったらやめない!」
「ヤメロったらヤメロ!」
「やめないったらやめない!」
「何でヤメねぇんだよ。イヤだって言っているだろ!」
「…イヤだ?」
新山の予想外の言葉にドキッとした。
「ああ、そうだ。イヤなんだよ。漆原はクールな方が良いんだよ。俺と同じようにシャレなんか言うな!」
新山は顔を真っ赤にして叫んだ。よほど体に力が入っていたのか、肩を上下させ荒い呼吸を繰り返していた。
 だが、私の顔も真っ赤だった。鏡で見たわけじゃないが、わかる。火が出そうなほど顔が熱いのだ。たぶん、完熟したトマトみたいに真っ赤だろう。
 だって、気づいてしまった。新山の本音に、気づいてしまった…
「ねえ、新山君。本当にクールな私がいいの?」
「そうだって言ってるだろ」







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