無い物ねだり
「だっていつも私を見たら、『朝から仏頂面しやがって。気分悪ぃー』って言っていたじゃない」
「・・・!」
新山はハッとしたかと思うと、オロオロしだした。ついさっき凛々しく熱弁を振るったとは思えないほどだ。あまりにも動揺しているので、吹き出してしまいそうだった。それをガマンし、私はさらに尋問する。
「ねえ、どっちがいいの?」
「く、クールな方がいいって、い、言っているだろ!」
「なんでクールな方がいいの?」
「な、何だっていいだろ!」
「よくないわ。せっかく新山君と『すごく』仲良くなれそうなのに。クールでいて欲しい理由がわからないんじゃ、またこんな風にケンカする事になる。そんなの…イヤ」
そして、チラリと新山が見た。彼の顔は、ゆでダコみたいに真っ赤だった。目をそらせば、すねた子供みたいに口先を尖らせた。
「俺は…バカ騒ぎするのが大好きだから、ついベラベラしゃべったり大声だしたりして笑ってしまう。みんなと仲良くできてチョー嬉しいけど、でも…侍とかにすごく憧れているんだ。寡黙で聞かれたこと以外しゃべんないのに、心も腕っ節も強い。そんな奴ってカッコイイと思う」
「そうだね」
「漆原はバスケがメチャメチャうまいけど、クラスじゃあんまりしゃべんない。他の女子みたく、大口開けてゲラゲラ笑いもしない。必要な時に必要なだけビシッと言って終わり。なんか『侍に似ているな』って思った。…だから、女子だけど『カッコイイ』って思った」
「…つまり、私がうらやましいんだ」
「い、いいじゃねぇか!うらやんだって。うらやましがられているんだぞ、ありがたく思えよ」
「そうね。じゃ、そうするわ」
「いいか。漆原はシャレを言うな。シャレを言うの禁止。言ったらデコピンな」
「ずいぶん厳しいわね」
「お、おう。俺はサッカー部でも厳しくて有名なんだ。女子だからって手加減しねぇ」
「いいわよ、私負けないもん」
「ふんっ、どうだかな。一回やられただけで『デコピンはやめてー!』って泣くかもしれないぜ」





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