無い物ねだり
(これまでのこと、本当に後悔しているんだろうな)
「片平が漆原にヒドイ事をした原因の一端は、俺にある」
新山は今度、苦しそうに息を吐き出すと、深々と頭を下げた。
「マジで、ゴメン。本当に深く反省している。顔の傷を見てわかるとおり、大橋達とは縁を切ってきた。もう二度とイジメない。誓います。…だから、俺と付き合って下さい。お願いします!」
新山は頭を下げたまま、右手を差し出した。
(少しお灸を据えてやるか)
私は腕を組み、様子を見守った。これまでされてきた事を考えると、すぐオーケーするのはシャクに障る。ちょっとだけ懲らしめてやろうと思った。
「お、お願いします!」
案の定、新山はジレて手をさらに前へ尽きだした。顔を上げれば、上目遣いに私を見た。その目は『早くしてくれ!』と訴えていた。お願いを受け入れずさらに様子を見ていたら、頭を下げているせいか緊張しているからなのか、顔や耳はさらに赤くなり、差し出した手はブルブル震えていた。今にも倒れてしまいそうだ。
 そんな新山は何だかかわいそうで…愛おしかった。
(もう許してあげるか)
そっと両手を伸ばすと、新山の申し出を受けようと手をギュッと握った。とたん、彼の手はビクッと震えた。彼の手はしっとり汗ばんでいた。考えていた以上に緊張しているらしい。
 新山はガバッと勢いよく顔を上げると、驚いた顔で私を見た。
「マジ、オッケー?」
「うん」
「絶対、マジ絶対?」
「うん」
私は頷くと、深く頭を下げた。
「これから、よろしくお願いします」
心は、照れくささと待ち受ける幸せな未来への幸福感でない交ぜになった。それは嬉しくて…こそばゆかった。
「…よかった、マジでよかった!すぐ手を握ってくれないからダメかと思った?」
新山は私の右手を握ったまま、とても嬉しそうに笑った。彼の笑顔を見ていたら、もっと幸せな気持ちになった。






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