無い物ねだり
「涼ちゃん、気をつけてね。落ち着いたら、メールか電話して」
「ありがとう」
「落ち着いたら、彼氏の事も聞かせてね」
「はっ?」
戸塚が言うと、みんなドッと笑った。恩田先生も村井も。私は早速冷やかされ、たまらずニラんだ。
「お母さん、早く行って!」
「はいはい」
母は返事をすると、ころころと笑った。動揺は少しも感じられない。対し、父は相変わらず何もしゃべらず、前を向いていた。私は横目でチラリと新山を見ると、心の中で『じゃあね』と言った。本当は沢山手を振りたかったが、これ以上冷やかされるのも、父の痛い視線を浴びるのもイヤで出来なかった。そして前を向くと、車の動きに身を任せた。
(出来るだけ早く新山君のメールアドレスと携帯電話の番号を聞いておかなくちゃ。じゃないと、いろいろ不便だ…)
「じゃ、また明日ね漆原!」
「色々ありがとう!」
そして、みんなに手を振って別れた。なんだかんだ言っても、大事な仲間だから。





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