無い物ねだり
クラスメイト全員、涙を拭きながらほめたたえた。確かに私もそう思った。ふだん、あまり笑わない方だが、今回ばかりは声を出して『アッハッハ』と笑った。抱えていた緊張もすっかりフッ飛んだ。
ただ新山を見たら、笑うのを止めてしまった。新山も大笑いして『カッコワリィ、俺!』と叫んでいるが、無理矢理笑っているような気がしてならなかった。
(みんなそう思わないのかな?私だけ?新山は大声で笑っているし。気のせいかな?)
しかし心の隅っこでもう一人の私が、『絶対、無理しているんだよ。これ以上恥をかきたくなくて、ハッタリかましているんだよ』と言っていた。
 そしてそれは、現実となった。
 同日、午後七時。
 部活を終えて帰ろうとした時、教室に忘れ物をしている事に気づいた私は、正面玄関に風亜を残すと一人教室へ向かった。
 午後七時を回った校舎はすっかり日が落ち、電気をつけなければ廊下も階段も真っ暗で何も見えなかった。生徒も全くおらず、私の足音だけが大きく響いた。
(建物はけっこう新しいけど、あいかわらず怖いな。お化けとか出そう…。さっさと忘れ物を取ったら帰ろう!)
階段を足早に駆け上がりながら思う。気は強いが、お化けの類はすっごく苦手。死ぬほど嫌い。証拠に、そのせいで大恥をかいたことがある。
 小学四年生の時だ。
 私には二歳年上の親戚の姉がいるのだが、彼女はちょっとイタズラ好きの女の子で、会うたびイジられてイライラしていた。
 夏休みのある日も、テレビを見ていたら遊びに来た彼女にアッチコッチこちょばされ、プチッとキレた。
『もう、やめてよ。テレビみれないでしょ!』
『だって、涼ちゃんが遊んでくれないんだもん。つまんないよ』
『だったら、こちょばしたりしないで、遊んでって言えばいいでしょ!』
毎回、こんな調子だ。もちろん彼女はやめない。怒っている私を見てニヤニヤするだけ。この私の反応を待っていたのだ。
(マジ、性格悪い…)
かくして、事件は起きた。





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