無い物ねだり
 私と、私の父、母、親戚のお姉ちゃんと妹、彼女の父と母で、ある日、食事に行った。私はお気に入りのレストランでご飯を食べられると言う事もあり、ものすごくテンションが上がっていた。彼女に少しくらいイタズラされても気にしないくらい、心も広くなっていた。
 だが、それが親戚のお姉ちゃんには面白くなかったらしく、えらく不機嫌だった。いくら彼女の父や母がおだててもダメ。時が経つごと、どんどん機嫌が悪くなっていった。すると彼女の父と母は『お手上げ』とばかりに、彼女を放って私の父や母と世間話をしだした。彼女はとても面白くなさそうだが、さんざんちょっかいを出されてイライラしていた私はせいせいした。
(ま、ちょうどいいお灸ね)
こっそりニンマリもした。
「そういや、アキヒト。今、思い出したんだが、昨日見たニュースに源太の会社が出ていたぞ」
「えっ、何で?」
「源太が現場監督している工事現場で事故が起こったらしい」
「そっか。源太、大変だなぁ」
父は『気の毒に』とばかりに小さく何度もうなずいた。ちなみに『アキヒト』は私のお父さんの名前。親戚のお姉ちゃんのお父さん、つまりおじさんは、私のお父さんのお兄さん。二人は兄弟なのだ。そして、源太はお父さんの同級生で、今、地元の建設会社で働いている。
 お父さんがうなずき終えると、おじさんは顔を近づけるよう、身を乗り出した。お父さんは、少しのけぞった。
「俺も今日のニュースを見て、すごいビックリしたぜ」
「た、大変だよなー」
「で、事故はどんな様子なんだ?」
「ああ。何でも工事していた従業員が五人も二階の高さから落っこちて、足の骨を折ったらしい。源太は現場監督だろ。責任重大だよな」
「ああ、責任重大だ」
「ただよ、問題はこっからなんだ」
「こっから?」
「どうやら事故は、源太のせいばかりじゃないらしいんだ」



< 23 / 214 >

この作品をシェア

pagetop